帰農、今日、明日

17年取材・制作 畜産農家 永田 愛莉

これからも愛情を込めて
みんなに愛される
立派な子たちを育てていきたいです。

畜産農家

永田 愛莉

Airi Nagata

第10回全国和牛能力共進会で内閣総理大臣賞を受賞した長崎和牛。中でも生産量が少なく「幻の和牛」と呼ばれる平戸和牛は、松阪牛や神戸牛とも比肩する質や味。その貴重な牛を大切に育てているのが、平成元年生まれの永田愛莉さんだ。

長崎市で生まれた愛莉さんは、祖父母のいる長崎県の五島列島で幼少期を過ごした。その後再び長崎市に戻り、諫早の農業高校へと進学。卒業後、母校の実習助手として勤めていた時に、後の夫と出会う。2年後、嫁いだ先は、夫の実家である平戸の畜産農家だった。

「平戸は環境的に五島と似ているし、幼い頃から畜産関係に就きたいと思っていたので、最初から全く抵抗はありませんでした。人情味溢れる人が多く、毎日が充実しています。」と言う愛莉さん。
彼女が、平戸=人情という印象を抱く上で、義父・初義さんが与えた影響は大きい。

「目に入れても痛くないほど可愛い」と、愛莉さんを溺愛する初義さんだが、何よりも嬉しいのが、自身の畜産に対する概念を変えてくれた事だという。「牛の事をよく勉強し、技術も習得している。何よりも偉いのは牛を叩かない事。私は以前、よく叩いていたのですが、それを見かねて『お父さんも叩かれたら痛いし嫌でしょう? 牛も同じです』と言われて反省しました。事実、牛を市場に出した際、買ってくれた人たちから『この牛は可愛がられて立派に育ったね』と言われます。今では何の遠慮もなく意見され、怒られるほど(笑)」

そんな二人の今後の目標は、そろそろ愛莉さんに全権を譲り、更に経営を良くして行く事、と初義さん。愛莉さんは、今は頭数を増やすより、病気や事故を防ぎ、より上質な牛を作る事だと言う。その愛莉さんの言葉には、向けられたバトンを受け取る覚悟がはっきり現れていた。

  • 牛を洗う二人 牛を洗う二人。「毛並みが良くなる為」と、掛けているのは何と汲んできた平戸の温泉。使うシャンプーは人間用のもの。
  • 牛を撫でる愛莉さん 牛を撫でる愛莉さん。牛も母親に甘えるように応える。
  • 愛莉さんと初義さん 「この娘が嫁いできてくれた事は、宝くじに当たったようなもん。家が明るくなりました。」と嬉しそうに言う初義さん。 本当に実の親子のように仲がいい。

Interview

―畜産の世界に入ってみてどうですか? 楽しいと思うのはどんな時なのでしょう。

牛が愛情注げば注いだ分、なついてくれるのが一番楽しい。まるで我が子のようです。
雄なら8ヶ月、雌なら9ヶ月くらいで巣立つのですが、就農当初は凄く辛くて涙していました。でも今では寂しさもあるけど「行った先で元気に大きくなってくれよーっ」という感じですね。

―巣立ちの寂しさをバネに、たくましくなられたのですね。畜産の厳しさを感じる時は?

牛を事故や病気で亡くした時です。管理の不注意で怪我をさせ、助けられなかった時は、すごく辛いです…

―畜産するにあたって、平戸はどうですか?

一般的に海辺の牛はミネラル豊富な牧草を食べて育つので肉が美味しくなると言われていますが、平戸はそういう環境も多いので適していると思います。ただ、ウチは山あいに位置し、環境的に最適とは言いづらいのですが、その分山からの美味しい水で愛情たっぷりに育てますので、他に負けない牛たちを作る自信はあります。

―海と山、どちらの恵みも素晴らしい平戸。人の恵みを感じる部分は?

ウチで言うなら、ご近所付き合い。横のつながりがあること。ご近所さんも農家で、お野菜がたくさんできた時はおすそ分けしてもらったり。こちらからは堆肥をあげたりと、持ちつ持たれつです。

―物々交換で食生活は成り立ちそうですが、収入の面はいかがですか?

現在の収入は、牛を売った歩合を経営者のお義父さんからいただいてますが、基本的に畜産は儲かると思います。その分、体動かしてきつい時はありますけど。現在の生活に全然不自由はないですね。

―畜産は体力面もハードだと思いますが、息抜きにはどんなことを?

カラオケとか。平戸だとお義父さんとも行きますし、旦那さんとなら佐世保とかまで行きます。

―最後に、平戸で就農を考えている人へのメッセージをお願いします。

何でも聞けるということが新人さんの特権だと思うし、頼られて嫌な顔をする人は平戸にはほとんどいないので、どんどん頼ってもらえればいいと思います。
新規就農者には、市や県などの補助制度も積極的に取り入れて頑張ってもらいたいです。

動画紹介

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